高校生夫婦はじめました。
伯母さんを心配してのことではなく、ただただ正臣を思っての感情だった。
正臣は優しい。ひどい言葉を吐いたら、自分が吐いたその言葉で、きっと彼自身が傷ついてしまう。私のために彼が傷つくことになるのはすごく嫌だった。

耳を塞ぐ手をはずさせようと彼の腕に触れる。私が「やめて」と言おうとすると、正臣は――険しい顔をするでもなく、力強い目で私の目を見た。意志の強そうな眼差しだった。だけど、これからひどいことを言う風には見えないほど、表情は柔らかかった。

耳を塞がれていても、音が少しこもる程度。
正臣の言葉ははっきりと聞こえてきた。



「俺が彼女を幸せにしたかったんです。中途半端な気持ちだと誤解されたくないから籍を入れました」



聞こえてしまった。



「責任なら最初から全部取るつもりでいます。……それでは足りませんか?」



正臣の言葉に、伯母さんがなんと答えたのかは聞こえなかった。ただ正臣が淀みなく言葉を続けるので、伯母さんが正臣を説き伏せられなかったことだけはわかった。

「俺がお願いしたいことは二つだけです」

塞がれたままの耳から聞こえ続ける。

「ちゃんと知佳を幸せにするので、どうか温かく見守ってください」


「それから、」


「妻を傷つけるのはやめてください」



(……妻)

その呼び方にドキッとした。
妻。そっか。……妻かぁ。



正臣の耳の塞ぎ方がヘタクソだったせいで、私は彼の一言一句をしっかり聞き取れてしまった。あまりの恥ずかしさに床にしゃがみ込みたくなった。正臣もきっと、これを真顔で聞かせるのは恥ずかしいから私の耳を塞いだんだろう。
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