高校生夫婦はじめました。
彼は何か声をかけてくるわけでもなく、メソメソしている私の隣にただ座っていた。学校にも行かず、家にも帰らずに。

何を言うわけでもなく、ただ黙って。水を注いでくれたり、温かいコーヒーを淹れてくれたり。お弁当を買ってきてくれたり、部屋の換気をしてくれたり。

まだ立ち直れていなかった私でも、さすがに気になって正臣の横顔を盗み見たときがあった。彼はじっと目の前を見据えながら、何かを考えているように見えた。

(彼がこのとき何を考えていたかを私が知るのは、もう少し後の話)

相手がただの幼馴染だったなら、私は「放っておいて」と彼を家の外に追い出したかもしれない。でも、正臣は私より四年も早くこの痛みを知っていた。正臣のお母さんの病気だってどうしようもなく理不尽で、母親を亡くしたことは彼にとっても深い痛手だったはずだ。
それでも彼はあれからの四年をちゃんと生きて、今は私を思いやってくれるまでに、自立している。

――正臣がずっと黙っていたのは、彼は自分の経験から、知っていたのかもしれない。

周りから励ましてもらうだけじゃ立ち直ることはできないことを。自分の中できちんと苦しんで、悲しむだけの夜も必要だということを。何度かそんな夜を乗り越えた後でやっと、前を向けるということを。

実際私は、数日間泣き続けて体から水分がなくなるんじゃないかと思ったときに、ふと、〝これからどうやって生きていこう〟と考えた。それは現実問題としての〝どうしよう〟ではあったものの、生きていく意志があるだけ、気持ちは前を向いたのだと思った。

そして、傍にいた正臣のシャツの裾を引いた。
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