最弱救世主とドＳ騎士

夏の始まりの夕暮れ

今日は供のジャックを連れ、リアムは愛馬にまたがり海を見つめる。

いつもと変わらない海
それは穏やかで優しい

太陽が海にゆっくり沈むと水平線が赤く染まり、夜の青が頭上から出番を待っている。

と、その時
水面が小さく動き始めた。

「あれは……」
リアムは顔色を変えて水面を鋭い目で見つめると、そこから小さなさざ波が円を描き、中心から美しい女性の姿が立ち上がる。

「リアム様！女神様が現れ……いてっ！」

ジャックは自分の馬からリアムが起こした強風に突き落とされ、その拍子に女性の姿も海から消えてしまった。

「あれはお前の女か？」
強風より恐ろしい声だったけど、ジャックは慣れっこのように砂をほろってまた自分の馬に乗る。

「酒場の一番人気、メイドのサマラです。リアム様は顔と剣の腕はいいけど、真面目で世間知らずの所がありますよね」

「だからその女をどうしてここで出す！」

「そんなイラっとした声を出さないで下さいよ。だって毎日ここにやって来て、眉間にしわを寄せながら怖い顔で救世主様をずーっと待ってるリアム様を見ていると、そんな冗談したくなりま……って！ごめんなさい！もうしません」

ジャックの身体はふわりと浮き、宙づりになって近くの木の上に飛んでゆく。

「リアム様ーーー！！！許して下さい冗談です」

「俺に冗談は通じない」

リアムは振り向きもせず
今日も海辺をジッと見つめる。