そして、失恋をする
家を出ると、まぶしい日差しが降りそそいでいた。空を見上げると、雲ひとつない青空がどこまでも広がっていた。どこからとも聞こえるツクツクボウシの鳴き声が、夏の終わりを告げているように感じる。

「一周間か…」

僕は、一周間しか生きれない千夏のことを思い出した。

千春以外の女性は、もう好きになりたくなかった。けれど、なぜか彼女が気になった。

「千春の、お墓に行くか」

そう言って僕は、亡くなった千春のお墓に向かった。


「おはよう、千春」

このあいさつも、いつものことだった。

もちろんお墓で安らかに眠る千春からの返事はなかったが、僕は幸せを感じていた。

「天国での生活は、どうだ?」

「………」

なにも答えられないことはわかっているが、冬川千春の名前が刻まれた灰色の墓石を見ると、涙腺がゆるむ。

「ははは、ごめんな。答えられないよな」

僕は小さく笑いながら、千春の墓石を見つめた。

もう彼女としゃべることはできないが、こうしているだけで千春と過ごした記憶がよみがえる。
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