そして、失恋をする
「俺が帰宅したときには家にもいないし、毎晩帰宅する時間は遅い。わかっているのか、お前は俺の妻なんだぞ。お酒ぐらい、家で飲んだらいいじゃないか!なんで、外で飲む必要があるんだ!」

「べつに、いいでしょ。私がどこで、お酒を飲もうと。それにあなたの妻だからって、なんで家でお酒を飲まないといけないの?私だって外でお酒飲みたいし、家事はしっかりやってるのだからいいじゃないの」

ケンカをしている両親の姿は見えないが、二人の口論はヒートアップしているのが伝わる。

「私はあなたの妻だけど、あなたのおもちゃじゃないの。私をそんなに束縛するのはやめてよ!」

母親の言葉を聞いて、父親がむっとした表情を浮かべた。

「誰も、束縛なんかしてない。ただ、化粧をしてお酒を夜遅くまで外で飲むことがお前にとってそんなに大事なことなのかって訊いてるんだ!」

「ええ、大事なことよ」

母親は、落ち着いた声で答えた。

「私はあなたみたいな人、もううんざりなの。私にばっかり干渉して、そういうところが嫌いなの。だから、帰りたくないの」

「お前‥‥‥‥‥」

かすかに父親の震えた声が聞こえた。

「はっきり言うわ、私と今ここで別れて。前からあなたと別れたいと思っていたし、ずっと前から他に好きな人がいたから」

母親がそう言ったのと同時に、パチンと高い音が響いた。

「出て行け」

それが、父親が母親に言った最後の言葉だった。

ーーーーーー母親が帰宅する時間が遅くて両親の仲は悪かった。しかし、母親に好きな人がいたなんて。しかも、離婚なんて‥‥‥。

何秒ぐらいだろうか、僕の頭の中はしばらく真っ白だった。
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