そして、失恋をする


「昨日と比べて、なんか元気ないね」

「そうか」

できるだけ明るく返事した僕だが、思ったよりも暗い声だった。

午前十二時四十分。とにかく家を離れたかった僕は、千夏が入院している総合病院にまた来ていた。

「なんか嫌なことでもあったの?」

「‥‥‥‥」

優しい口調で訊ねた彼女だったが、僕はその質問に答えたくなかった。

病室の窓から見える夏の青空はいつもは美しく感じられるが、今日はなにも感じられなかった。

「今日も、天気いいね」

「そうだね」

僕は、短く答えた。

「天気の話題には、ちゃんと答えてくれるんだね」

「えっ!」

千夏の方に視線を向けると、彼女はクスッと笑っていた。

「嫌なことでもあったの?」

千夏は、さっきと同じ質問を僕にした。
< 86 / 172 >

この作品をシェア

pagetop