アローン・アゲイン
「夢が叶うまで彼は待てないと?」

「誰もが私を非難すると思うわ…根拠のないワガママを理由にね。
優柔不断な態度が触発したのであれば彼の衝動は受動的で理に敵ってるけど、納得し難い動機で執拗に詰め寄られたから、気心がくすんでしまったのかも…」

「イビツな愛情が一方的な執着心へと肥大化したのであれば、募らせた愛情さえ曇らせる覚悟も範疇に?」

「ストイックな彼が計略した定石であるならその愛は恣意的よ…その確執に一度でも媚びてしまうと、想いに駆られた愛でさえ惰性化してしまうから」

狙っての事なら明らかに確信犯だが───

「安易な選択を念頭に置く事が堕落の定義なら、その兆候を未然に防ぐ手立ては?」

───その心持ちに偏見は無いのだろうか…

「食い止めようにも余力の渇れた私にその術など無かったわ…逃れようのない不安が彼のセオリーに感化された心の焦点にまで影を落としたていたから」

理不尽な経緯を建前とする屈強なメンタルとは真逆の脆弱心に矛盾的差異を感じたのも、背景にある思惑が後述の中で見え隠れしていたからだ。

「彼は結婚を言い訳に歪んだ支配欲を満たしたいだけ…でも勘違いしないでね。
不和とはいえ動機が不純だとは思っていないわ、成婚への拘りも価値観の劣化とは別物だし…
ただ将来を見据える上で骨抜きとなった愛が重荷となり二の足を踏んだのは事実よ…隠し立ては意に反するから正直に打ち明けるけど──」

寡黙な眼差しは頑なに自身を責めるが、饒舌に嘘を並べる人ではない。
では彼の慢心が驕りの束縛を招いたのか…結論から言えば違う様だ。

「───彼の理念が呪縛と化し、穏やかな性格までも狂わせたの」

「その呪縛とは君が感銘を受けたというセオリーの事を指してる?」

「えぇ…察しの通りよ」

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