相合傘
…あー。先生、声でかかったなー…。
聞こえたんだ?
…ちょっとだけ。
…転校…するの?
立ち止まってしまったあたしと、
向き合うように、立って。
仁くんは言った。
もともと、うちの親、転勤族なんだよね。
高校になったら、もう単身赴任かと思ったら、母親が、やっぱり一緒に行くってきかなくて。
…まあ、しょうがないかな。
いつものことだし。
みんなに…。
言わないで行くつもりだったの?
…ここは、少し長かったから。
言いにくかったし。
いっそ、ドロンといなくなるかーと思って。
また、苦笑いする。
そっか…。
内心つらいんだろうなと、思ったら
涙がこぼれた。
わ。佐々木…。
ごめん。なんか…。ビックリして。
あたしね、今日、仁くんに…
あ、ごめん、佐々木。
…言わないでくれる?
…え?
見上げた顔には、笑顔は無かった。
俺…。
聞いても、何もできないから。
…ごめん。
雨小降りになってきたし。
もう、うち…すぐそこだから、
こっから、走ってくよ。さんきゅ…。
結構、雨ぬれてる…ごめん。
気をつけて帰って!
じゃあ!
そう言うと、傘をあたしに持たせ、
走って行こうとした。
一瞬触れた手が、冷たくて。
仁くん!
思わず、叫ぶあたしに、振り向いて。
ぶんぶん手を振りながら、
風邪ひくなよ!と、叫び。
もう、振り向かずに…走って行った。