うそつき
でも、今日はね、今だけ。


長年のわだかまりが解消されたなら、果乃が楽になったなら。


それでもいいと思う。



千都が立ち上がった。




果乃に近づいて、流れた涙を親指で拭くと、果乃のことを抱きしめた。



「辛かったのに頼れないやつでごめんな」


「そんなことない…本当にごめん」



今日だけ、今だけ。



「よければまた俺のとこに戻ってこない?」



「それは絶対ダメっ」



思わず口出しをしてしまった。


果乃と千都を引き剥がす。


すると千都はニヤッと笑った。



「安心しろ、どうせ果乃はおまえのことしか好きじゃねぇし、もし、そうじゃなかったとしても、俺のとこにはこねぇよ」



「唯兎くん…」



これは絶対引かれた。



これはもうすぐに引きさがろう。



「唯兎くん!」



そう言って果乃は僕に抱きついてきた。


後ずさりしているときに抱きついてきたから、バランスを崩して倒れてしまった。



そんなこともお構い無しに果乃は僕の上に乗ったまま喋る。



「唯兎くん、私のこと嫌いになった…?


最低だって…思った…?」




「そんなことないよ、果乃は果乃じゃん。


僕はお姉さんのことは知らないけど、もし知ってても果乃のことが好きだと思う。


劣等感なんて誰だって抱くでしょ、気にしないの」



そんなこと言っても多分無理だろうけど。


僕の言葉でちょっとでも、楽になってくれたらって思う。
< 89 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop