思い出はきれいなままで
「ちょ、あの?社長?」
どういう状況か全く分からず、私はとりあえず社長を呼んだ。

「千香」
その言葉に、私は動きを止めた。

あの時もそうだった。
不意に思い出してしまったあの記憶。

二人で海を見ていた、不意に呼ばれた私の名前。
いつも加納とよぶ光輝先輩が、初めて私の名前を呼んだ。
その事に意識が飛んでいるところに、触れた唇。

そう思った時には、私の唇は塞がれていた。
軽く触れただけのあの時と同じように、チュッとリップ音を立てて離れた唇に、私は驚いて目を見開いた。
そう、ここまではあの時と同じ。

あの時はそのまま二人とも、無言で海を見つめた。

でも……。
今は違う……。

あの頃とは……。


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