思い出はきれいなままで
偶然?何も言ってくれないし……。
先輩だとしても、あんなにモテた人だから、何年も前のただの後輩を忘れているだけ……かな。

パタンと扉を閉めると、私は自分のデスクへと戻った。

3時少し前になり、私は朝教わった通り秘書室横の給湯室へと向かった。

「加納さん?」
声を掛けられ、私はコーヒーを淹れる手を止めた。

「あっ……えっと?島崎さん」
朝、メンバーを紹介された時の記憶を私は必死に手繰り寄せた。

「そうそう、覚えてくれて嬉しい。同じ年だし恭子でいいわよ」
にこやかに笑った綺麗な女性は、秘書課の同僚で、確か副社長秘書だったはずだ。

「ありがとう、私も千香で」

「OK。どう?社長は」
彼女もお茶をいれに来たようで、慣れた手つきで湯呑を温める。

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