飴と傘
 私は、どの飴にするか決められなくて、冷蔵庫にどんどん溜まっていくことを話した。係長は笑った。

「飯倉さん、優柔不断だもんね。三田村君もわかってるんだろうから、決めてくれればいいのにね。相変わらず、冷たいところがあるよね……っていうか、そこがいいのか。ツンデレ。三田村君のバリサックスも、そんな感じの音だもんね」

(そうなんですよ、係長。響の最大の魅力はそこ!)

 私は心の中で答えた。

「やだなあ、飯倉さん。顔、にやけてるよ」

「えっ!?」

「安心だけどさ、上手くいってるみたいで。ところで、飯倉さんは『雨の曲』と言ったら何が思い浮かぶ?」

「『My favorite things』。ジャズアレンジの。ドラム、シンバルの感じが印象的じゃないですか? 細かい雨がさーっと降る感じで」

 私にしては珍しく、すっと答えが出た。

「面白いこと言うね。あれは雨の歌じゃないでしょ。歌詞はRaindropsで始まるけど……ああ、でもあのドラムの感じは確かにいいね……ちょっと、ミズモリさんの曲に合わせる感じで、適当に叩いてみてくれる?」

 久しぶりに、係長が明るい表情を見せた。

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