飴と傘
 私のドラムに合わせて、係長がメロディーラインをピアノでポロンポロンと弾く。いい感じだ。ミズモリケントの低めでハスキーな声なら、もっと雰囲気が出そう。

 その時、ドアが開いた。響だ。

「あー、三田村君、いいところに」

 これ弾いてみてよ、と係長が譜面を渡す。響は部室に置いてあるバリサックスを組み立てて、私たちに加わった。

「僕は左手でミズモリケントのボーカル、右手でトランペットの旋律を弾くよ、黒田社長のチューバは、いつものように伴奏だから、あまり変化はなくて……」

 そこで、係長の説明を響が遮った。

「じゃあ、社長も呼んでみては? その方が感じ、つかめるでしょう?」

 そして係長が返事をする間もなく、内線をかけた。

「来るって。せっかくだからミズモリさんにも加わってもらいましょうか。そうすれば、萩岡係長はトランペット吹けるし」

 今度はミズモリさんに外線を。

 曲の始まりはイントロなしで。

 ボーカルとすべての楽器が一緒に入る。

 社長のチューバはいつものように安定していて、係長のトランペットは控えめながらも曲に彩りを。バリサックスは、ボーカルと絡み合うように全く別の旋律を奏でる。バッハの二声みたいだ。さすが係長、粋な編曲だ。

 雨の雰囲気を出すのは、私のドラム。そしてスピーカーホンにした電話から聞こえるミズモリケントの声が、すべての音を一つにまとめた。
< 9 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop