俺の彼女が一番可愛い!
「キャラメルマキアート好きなの?」
「いや、だって岡田さんの好きな人が好きなもの、飲んでみた方がいいかなって。」
「…声の大きさ!」
「ごめん!」

 確かに、ここは凛玖の職場である。しかも相手はここのお客さん。声の大きさには気を付けた方が確かにいい。

「うん。美味しい!キャラメルマキアートも、確かに疲れた体にはいいかも。」
「…なんかさ、女子力高くないか、咲州。」
「…そうかな。…でも、そうかも。よく言われる、可愛いって。」
「わかる気がする。どうせ今みたいに、ふにゃって顔してんだろ、彼女さんの前で。」
「え?」

 クロワッサンにかぶりついていたこともあって、より間抜けな声が出た。

「それで?どうやってバイトと客の関係から恋人までのし上がったんだ?」
「…のし上がる、っていうのも違うけど、えっと、彼女は…。」
「名前で呼んでいいよ、そっちの方が言いやすいって感じがする。」

 綾乃のことを『彼女』なんて言うことはほぼない。ここは凛玖の申し出がありがたい。 

「綾乃ちゃんはずっと常連さんで、といっても毎日とかじゃなくてちょこちょこ来る感じの常連さんでね。」
「ふぅん。」
「オーナーとよく喋ってて、俺も何となく話は聞いてて、可愛い人だなとは思ってて。」
「どうやって話すようになったんだ?」

 何がきっかけかと問われれば、オーナーが声を掛けてくれたからだとしか言いようがない。

「…オーナーには、多分俺が綾乃ちゃんをちょっと気にしてるってことがバレてたんだと思う。」
「…なんか、気が利きそうなオーナーさんだよな。」
「うん。実は親戚なんだよね。ちょっと俺、両親もいなくて、結構状況が複雑というか。まぁだから綾乃ちゃんと一緒に住んでるってのもあるんだけど。背中、押してくれたんだと思う。」

 両親を失って、人と関わるのが怖くなって。そんな時代の自分を知っている人だからこそ、誰かに出会ってほしかったのだろうと思う。そんな自分を大事にしてくれて、大事にしたい、と思える人に出会うことを。
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