俺の彼女が一番可愛い!
「…可愛いのは理真さんだから。」
「そんなことないよ。少なくとも今は、凛玖くんの方が可愛いと思うな。」
「っ…。」

 抱きしめる手が強くなった。理真もそっと抱き返す。この匂いも、温度も、照れた頬も、全てが愛しいと思える。不安や悩みは尽きなくても、今この腕の中にいる時間を信じることはできる。これを積み重ねて、いつか綾乃と健人のようになれたらと思う。
 強く風が吹く。風に舞う桜の花びらが、ひらひらと落ちてくる。

「あ、凛玖くんの頭の上。」
「桜?」
「うん。」

 手を伸ばして凛玖の頭の上に乗った桜の花びらを取る。

「桜の花びらなんて久しぶりに触ったよ。去年の今頃はそれどころじゃなかったし。」
「社会人1年目?」
「うん。生き延びれたのは、本当に凛玖くんがいてくれたからだよ。今が楽しいのも、本当に。」
「だとしたら、もっと早く距離詰めたらよかったなぁとか思っちゃうけどね。」
「私がとっつきにくかったんだよ、きっと。」
「そんなことはないけどな。」

 凛玖がそっと、理真の額に額を重ねた。

「ただ、俺に自信がなかっただけ。自分よりも先を、しっかりと歩く人の横に並ぶ自信。」
「全然しっかりしてないよ。今は凛玖くんがいるから頑張れるってだけ。」
「俺、支えになってる?」

 心配そうな凛玖の表情に、理真は笑顔で返す。

「もちろん。こうやって付き合う前からずっと、凛玖くんに癒されてたんだから。」
「え…?」
「だからね、凛玖くんはそのままで充分、私の支えになってるよ。」

 二人の間に距離ができる。凛玖の手を理真は取って歩き出す。そっと握り返されれば、自然と二人共、笑みが零れた。
 ただ手を繋ぐだけ。それでもこの距離が、この温度がたまらなく好きで、大切だ。

「今年は私も2年目だし、去年よりはゆとりがあると思うから、たくさん出かけようね。凛玖くんはどこに行きたい?」
「…そうだなぁ、鎌倉?」
「食べ歩きも楽しいみたいだしね。じゃあ連休は鎌倉だね。」
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