俺の彼女が一番可愛い!
「…そっか。でも確かに、俺の方が甘えてるよね、綾乃ちゃんに。」
「どうしてそう思えるのか、全然わかんないけど、実はそれは違うんだなぁ。理真ちゃんには話したんだけどね。」
「え?」

 健人が首を傾げる。お願いだから、彼女よりも可愛く見える仕草は控えてほしい。

「そのままでいいよって言ってくれることが、最大の甘えだよ。それに健人はさ、すぐなんでもやっちゃうでしょ?私、健人なしじゃ生きていけなくなりそうで怖いわ、最近。」
「綾乃ちゃんなしで生きていくつもりなんかないよ?」
「…って返しもさ…。充分見透かされてるし、甘えさせてもらってるよ、本当に色々な面で。年下としては背伸びしてリードしなきゃと思ってるのかもしれないけど、いらないんだよ。リードしてほしいわけじゃないの。そのままでいてほしい。そのままでいいって言ってほしい。」

 ふと足を止めた健人に、綾乃も足を止めた。そのまま手を引かれて、いつもの胸に抱きとめられる。抱きしめる腕がいつも通りに優しい。

「そのままの綾乃ちゃんが大好きだよ。」

 耳元で囁かれた、いつも通りの優しい声。この『いつも通り』を受け入れることが、甘えそのものだと綾乃は思う。ずっと絶えることなく、この優しさは降り積もっている。きっと、出会ってからずっと。

「健人のことが大事だよ。だから、健人が私を心配してくれるみたいに心配だし、もっと仕事が忙しくなかったら家事もやりたいし、体力余ってたらデートもしたいし。」
「うん。」

 さらりと揺れた、綾乃の髪。揺らしたのは触れた健人の手だった。

「…そのままの健人が好きなのは、同じだよ。」
「うん。」

 綾乃の頭の上に乗った、小さなキス。
< 38 / 41 >

この作品をシェア

pagetop