いつか、きみの空を。
「花奏のが知ってるんじゃねえの? ほら、メッセージが残って……あ、新しいの入ってる」
わたしにも見えるように傾けられた携帯を覗き込むと、まだ開いていないメッセージがあった。
午前二時前に送られたそのメッセージを慶が開く。
【夕方、慶の家に行く】
【家には来るなよ】
その二行に顔を青くした慶が、なかったことにするように電源ボタンに指を置くから、思わず携帯をふんだくる。
「あっ!おい、花奏!」
焦って手を伸ばすけれど本気で取り返そうとしないのをいいことに、サッとメッセージに目を通す。
「この時間……」
慶からの明日遊びに行っていいかという唐突なメッセージは昨日の午後六時過ぎに送られている。
昨日わたしと葵衣が一緒にいた時間だ。
そして、イエスかノーの返事もせず、午前二時前に葵衣が送ったメッセージ。
葵衣はもしかして、あのあとずっと起きていたのだろうか。
眠れずに明け方まで過ごしていた、わたしと同じように。
「なんでこれ見ないで家に来たの」
戸惑いを誤魔化そうとして慶に話を振ったけれど、慶は慶でそれどころではないらしく、えっ!? と声を裏返す。
「だ、だってさあ……葵衣の無視はイエスみたいなもんなんだよ」
「慶ってさ……」
葵衣からの扱い、ひどいよね。
さすがに声に出してこれ以上沈まれても困るから、喉奥までせり上がった言葉を飲み込む。
「葵衣がいねえなら、俺帰るな」
差し出された手に携帯を置くと、背中は向けず、不自然な横歩きで去って行こうとするから、その腕を掴んで引き留めた。
「まだ時間あるんだから、上がっていきなよ」
「え、いや、いい」
「慶、なんでそんなに遠慮するの?」
高校が別々になって、連絡も頻繁に取ることはないから今日顔を合わせたのも久々だけれど、よそよそしい態度の意味がわからない。
昔は葵衣とわたし、慶と日菜の四人でよく遊んでいたのだから、今更人見知りをするような仲でもない。