いつか、きみの空を。
見せて、見せないで
◇
漏れる嗚咽が隣の部屋に聞こえないように布団に潜って泣いていたから、そのまま眠ってしまっていた。
窓の外はすっかり暗くなっていて、耳を澄ませると何かを炒める音とテレビの音が微かに聞こえた。
葵衣は料理をしない。
食事に頓着がないことと、料理が壊滅的に下手で、わたしと友紀さんにキッチンに立つことを禁止されているから、まな板の上で済むものならまだしも、炒め物なんて以ての外。
つまり、わたしの他にこの音を出せるのは友紀さんしかいない。
目元が腫れていないかを鏡で確かめると、少し赤みがあるけれど、擦ったと言えば誤魔化せる程度に薄らと残っているだけ。
葵衣に見られるのは気まずいけれど、慶の家へ行くと高確率でご馳走になって帰ってくるから、今夜の夕食は友紀さんとふたりになるだろう。
それを伝えるためにも、情けなく垂れた目尻を引き締めるために両頬を思い切り叩いて、リビングへ向かう。
開けっ放しのリビングへ足を踏み入れると、友紀さんがフライ返しを片手にテレビ画面に釘付けになっているところだった。
「友紀さん、ごめんね。疲れてるのに夜ご飯の用意させちゃって」
「ちょっと静かに!」
「え……」
突然語気を荒げられて、片足を突き出した体勢のままフリーズする。
友紀さんの視線を追ってテレビ画面を観ると、空の皿を前にして何かを訴える猫の姿。
うにゃうにゃと不満げに鳴き続ける猫はご飯を要求しているのだろう。
意地悪せずに与えてあげなきゃグレるんじゃないかと心配になる。
友紀さんは前のめりになっていた背を伸ばして、首を傾げている。
「うーん……言われてみれば聞こえる気もするけどなあ」
「なんなの、これ?」
「おなかすいた〜って言ってるんだって」
「言ってない言ってない」
こういうのは、何を言っているのかを出す前に映像を流すべきだと思う。
先入観がなければ、変わった鳴き方の動物がこういう要求や不満を投げかけているのだろうとしか思わない。