いつか、きみの空を。
クラスメイト達が一斉に立ち上がり始める中、橋田くんが何か言いたげに口を開いたけれど、真っ直ぐにわたしに向かってきた日菜に遮られる。
「花奏!慶と葵衣待ってるから行こう」
「もう来てるの?」
「うん。さっき着いたって」
わたしの手を引きながら、視線は鋭く橋田くんに向けている辺り、日菜の執念も相当なものだと思う。
わたしの知る限りではこのふたりに接点はないし、前の日直の一件を引き摺っての態度なのだとしたら、橋田くんには少し申し訳ない。
「あ、橋田くん、また明日!」
机の上に置いた鞄を掴んで、日菜に手を引かれるままに教室を出る間際、置き去りにされた橋田くんに向けて声を張ると、残っていたクラスメイトが揃って驚いた顔をしていた。
日菜もびっくりしたように大きな目を瞬いてわたしの顔をまじまじと覗き込む。
「……花奏、橋田のこと好きなの?」
「なんでそうなるかな。日菜の当たりがキツいから、橋田くんも気にしてるんだよ」
好きな人の話題は日菜が一方的に話すのを聞くことが多くて、わたしは一度も日菜に自分の恋愛話をしたことがない。
初恋は葵衣で、今も葵衣が好きなことは、どちらも教えられない。
日菜にそういう話を出来るのは、いつになるんだろう。
「だって、あいつヤなやつなんだもん。絶対に花奏のこと狙ってる」
「まさか。というか、なんでそんなに毛嫌いしてるの? 日直のときのことだけ?」
「……教えない」
唇を突き出してきっぱりと言い切る日菜にこれ以上引き下がっても機嫌を損ねるだけ。
これから四人で出かけるというのに、変な雰囲気にするわけにはいかないから、ずっと引かれていた手を逆に引っ張り返して廊下を駆ける。
「ちょ、花奏!はやい!」
「ふたりとも待ってるって言ったのは日菜でしょ」
階段を駆け下りて昇降口を出ると、正門の辺りに人集りが出来ているのが見えた。
もしかして、慶と葵衣に集まっているのでは、と日菜とふたりで顔を見合わせ、一直線に走る。