いつか、きみの空を。
慶と日菜から距離を置いて、けれど葵衣に駆け寄ることも出来ずにいると、慌ただしい足音が追いかけてきた。
「真野さん!」
ビクッと自分でもわかるくらい、大きく肩が跳ねた。
この場にいる『真野』はふたり。
だけれど、声の主を振り向かなくたって誰を呼んだのかはわかる。
「橋田くん」
「ごめんね、どうしても気になって。……彼氏じゃ、ないんだよね……?」
わたしのそばで耳打ちをするように囁きながら、橋田くんが目で示したのは、位置的に葵衣だ。
「ちがうよ」
「本当に?」
しつこい、と言ってしまいそうになるのを飲み込む。
日菜が橋田くんに向かって騒ぐのを、慶が止めていた。
わたしは葵衣を振り向くことが出来なくて、もう一度、ちがうと呟いてから頭を振る。
「あんた、しつこいよ! 花奏と葵衣は双子なの!」
「……ふた、ご?」
わたしが避けていた言葉を、代わりに日菜が叫んでくれた。
橋田くんは日菜の言葉を反芻しながら、わたしから離れた。
「気になるんなら花奏に聞けばいいじゃない。前もそう。真野さんに彼氏はいるのか?って。直接聞く意気地もないようなやつに花奏はやんないんだから」
わたしの知らない話を日菜と橋田くんがしている。
話の内容は聞き取れているのに、理解が追いつかなくて、ただこの場で取り残されているのがわたしだけではないことに安心した。
慶も困惑していて、日菜に伸ばしかけた手を引っ込めている。
「そ、そっか……真野さん、双子だったんだ。知らなかったな」
「だったら、なに?」
傍から見てもわかる、安堵を滲ませた笑いに、心底腹が立つ。
考えるよりも先に口から出た冷たい声に、一瞬すべての音が消えた。
「橋田くんには関係ないでしょう」
そうだ、関係ない。橋田くんには何も。
この感情は怒りではなく、悲しみだ。
何も知らない橋田くんが、日菜からの情報だけで、わたしと葵衣を双子と認識して、安堵する様子を見せられて、地べたに伏せてしまいたくなるほど悲しい。
双子だからって安心するの?
わたしが葵衣を好きで、葵衣がわたしを好きかもしれないって、そんなことは考え付きすらしないの?
「真野さん……?」
伸ばされた橋田くんの手を、ほとんど反射的に弾こうとしたとき、わたしの爪がバチンと音を立てて当たったのは、別の人の腕だった。