いつか、きみの空を。


「花奏、落ち着け」


誰の腕を叩いたのか。

それに気付くよりも先に、聞き慣れた声と久しぶりに触れた体温がわたしを包む。

肩口に額がつきそうなくらい腰を屈めて、わたしの震える手を掴む葵衣に、三人からは見えていない左手だけでしがみつく。

小さく、葵衣が息を飲む音がした。


数分にも感じられた数秒の後、葵衣はわたしから離れて肩に腕を回してきた。


「こいつ、俺より後に生まれた妹なんだけど、日付跨いでたのに昔から誕生日一緒くたにされたりしてさ、双子って言われるの嫌いなんだよ。許してやってな」


小馬鹿にしたように笑いながら、強引に組んだ肩を揺さぶって、葵衣は橋田くんを窺い見る。

わたしは顔を上げられずに、葵衣に揺らされていた。


「そう!プレゼントもちゃんと貰ってケーキもふたつ用意してもらってんのに、二十一日じゃなきゃ嫌だって昔からうるせえんだよ。なあ、日菜」


「誕生日は特別でしょうが」


慶はきっと、フォローのつもりなんてないんだろう。

ただ単に思い出して、ゲラゲラと笑い出すから、わたしの代わりに日菜が慶を叩いてくれた。


「花奏もそんなに怒ることないだろ?な?」


わたしの顔を覗き込む葵衣の目は優しい。

大丈夫、って言外に伝えてくれる。


「うん、大人気なくて……ごめんね」


涙声を振り絞って言うと、橋田くんは戸惑いながらも全然平気!と手を振り去って行った。


「逃げたな」


「逃げたね」


ふたり揃って同じことを言う日菜と慶を尻目に、わたしは葵衣のシャツの袖を掴む。

こうして、躊躇いもなく葵衣に触れたのはいつぶりだろう。


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