いつか、きみの空を。
「二十一日の十八時」
「え……?」
「駅前で……この間の待ち合わせ場所で待ってる」
にじゅういち、にち。
その日は、わたしの誕生日だ。
十二月生まれだということは教えていたけれど、日付までは知らないはずなのに。
そういえば、ずっと前に慶が零していたっけ。
よく覚えているなあ、と素直に感心した。
「行かないよ、多分」
帰って来るかわからないけれど、葵衣と過ごせる誕生日は、今年と来年の二回だけかもしれないのだから。
どちらも、捨てたくない。
「それでも待ってる」
「すごい迷惑だって言っても?」
「ははっ、言われそうだなあ…… だけど、欲しがるって決めたから」
わたしはどこで橋田くんに火をつけてしまったのか。
焚き付けてしまったのだと気付いたときには、消せないほど燃え広がっているものだから、用心していたはずなのに。
「それまでは、この距離のままでいよう」
パッと離された手に追い縋ってみたら、橋田くんはどんな反応をするだろう。
抱き締めて、離さなかったりするのだろうか。
そうしてくれないところが、優しくて、けれど優しくない部分。
行かなかったら、それまでは、ではなくて、それからも、この距離になるということ。
葵衣のことで精一杯なのに、橋田くんのことまで悩まなければいけないとは、恋って忙しい。
想うのも、想われるのも、一生懸命にすることらしい。
恋をされて、恋をして。
苦しいけれど、ぬくもりは確かにある。
誕生日までの数週間、橋田くんはわたしに必要以上に話しかけなくなったし、恒例になっていた金曜日の放課後デートも誘わず誘われず。
履歴の下の方へいってしまった橋田くんとのメッセージのやり取りが懐かしくて、たまに読み返していることは内緒だ。
気付くと、わたしの誕生日まであと一週間となっていた。
ベッドの上に広げた衣類を、橋田くんとのデートのときほど悩まずに適当にバッグへ詰めていく。
旅行前日になっても帰ってこない葵衣が、本当に明日の朝ここへ来るのか不安な気持ちもある。
その夜は、葵衣が荷造りをしに帰って来るのではないかという緊張で一睡も出来なかった。