いつか、きみの空を。
大粒の涙が床に落ちていく。
葵衣に引き寄せられるまま、その胸に倒れ込む。
わたしよりも大きな身体に包み込まれて、つい自嘲気味な笑いが零れた。
「花奏……」
「ふ、ふふっ……ごめんね、なんか、わたしはずっと夢を見てたんだなって」
「夢……?」
そう、夢。
優しすぎる夢を見ていた。
腕を広げて胸を張って顔を上げていたら、葵衣のことを守れるんじゃないかって。
こんなに大きな身体をわたしの小さな手や背丈で守れるわけがなかったのに。
葵衣を隠してあげることさえ、できない。
「あの約束、葵衣は覚えてたんだね」
「覚えてるよ。忘れるわけがない」
肩口に顔を埋めた葵衣の声はくぐもっていて、心なしか震えているように聞こえる。
ぐっと唇を噛み締める。
薄皮が裂けて、ぴりっとした痛みが走る。
「約束、忘れてって言ったらどうする?」
忘れてって、言わなきゃいけないのに。
こんなときまで葵衣に託そうとする自分に嫌気がさす。
「忘れない。絶対に」
葵衣も唇を噛んだのだろう。
鮮烈に響いた声が苦しかった。
乾きかけた目元に新しい涙が浮かぶ。
「なら、約束を変えてほしい」
がんばれ、わたし。
これだけはわたしから言わないといけない。
葵衣に背負わせてきたものを取り返すことができないのなら、もうこれ以上は葵衣に与えてはいけない。
「生まれ変わったら、もう二度とわたしに出会わないで」
次はなくていい。
今があればいい。
懇願するように、葵衣に向かって言うと、息を飲む音までもがはっきりと聞こえた。
この約束に塗り替えてくれるのなら、わたしはもう、日菜も慶も友紀さんも、何もかもを捨てる覚悟に変えて、葵衣と生きていく道を選ぶから。
お願い、どうか。
「それは、聞けない。約束を変えるなら、生まれ変わるまで、もう二度と会わない」
祈るように伏せていた瞼から力が抜けた。
どこまでも正反対な葵衣のことが、心底嫌いだ。
ここまで相反するのなら、兄妹でいる意味って何なのだろう。
『葵衣』と『花奏』
共通して入っている【 天 】の文字と、体中を巡る血液は何のために在るのだろう。
こんな世界、壊れてしまえばいい。
兄妹でいる意味が無いのなら、兄妹でいたくない。