無愛想な仮面の下
6.モジャで十分
 どんな顔をして会えっていうのか。
 そんな心配は杞憂だった。

 会社で見かけてもこちらを見向きもしなければ自分が届けに来いと言ったくせに今だって…。

「あの。この鍵。」

 私が差し出した鍵を受け取ると無言で試作室の部屋の扉は閉められた。

 あぁ。とも、ありがとう。とも、何も。

 そうだった。そうでした。
 モジャってあぁいう人だ。
 佐久間さん改めあんな人、モジャで十分。

 安定の無愛想で不機嫌。

 せっかく緊張しながらも届けに来たのに、昨日のアレはなんだったんだろうって寝不足になる必要だってなかったんだ。

 馬鹿馬鹿しくて泣きたいくらいだった。

 不意に足元がふらついて、階段の踊り場でドキリとした。
 寝不足になんてなるからだとか、色んなことが早回しで思い出されて、気がつくと力強く腕を引っ張られていた。

「馬鹿野郎!
 だから言わんこっちゃない!」

 体は冷たい床に叩きつけられることなく、大きな胸の中に収まっていた。
 それも見上げたその人の髪はモジャモジャで。

 すぐ近くで目が合うとバツが悪そうに腕の中から解放された。

「えっと、それが素ですか?」

 モジャモジャの髪の隙間から見える顔は赤かった。
 怒りからなのか、照れからなのかは分からないけれど、その赤い顔を隠すようにモジャはうなだれた。

「うなだれたフリしなくていいですよ?」

「フリじゃねぇ。
 本気でうなだれてるんだよ!」

 鋭い目つきで睨まれて思わず吹き出してしまった。

「私は大丈夫ですよ。
 ほら。晴れ女ですし。」

 言わんこっちゃないって、もしかしなくても、自分と関わったせいで不幸になるとかそういう心配だよね?

 再びバツが悪そうな顔をして「あぁ、そうかよ」とだけ言って来た道を戻って行った。

 わざわざ心配して気にかけてくれてたんだ。
 そう思うとなんだかおかしかった。

 無愛想で不機嫌なくせに。

 私も立ち上がって自分の部署の方へと気を取り直して向かう。

 戻る途中、やっぱりモジャじゃなくて佐久間さんって呼ぼうと勝手に心に決めた。









< 18 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop