無愛想な仮面の下
「由莉ちゃんなんかしたの?」

 当たり前のように話しかけてきた守谷さんに「由莉ちゃんって呼ばれる仲でしたっけ?」と冷たく言ってやりたかった。

 それをしなかったのは、大騒ぎの人集りを呆然と眺めていたから。

 人集りの中心には佐久間さん。
 お願いした通り、身綺麗になっていた。

 髪は整えられてまさかのサラサラヘアーだし、髪の毛がスッキリしただけじゃなくて眼鏡もしていない。

 いつの日かの雨の日に見たイケメンがそこにいた。

 キャーキャー言われて当の本人は煩わしそうに胸ポケットから眼鏡を出して装着した。
 同じダサ眼鏡のはずなのに、お洒落な眼鏡に見えるから不思議だ。

 お陰で余計にキャーキャーが酷くなって不機嫌さが半端なく顔に出ている。

「あいつ、面倒だからってわざと汚い格好してたんだぜ。
 女避けっていうんだから勿体ないよな。」

 女は上辺しか見ない。
 まさかのイケメン側の意見……。

「じゃあの無愛想であんまり話さないのも……。」

「無口は昔から。
 無愛想なのは、まぁ人見知りっていうか。
 慣れた奴には普通だぞ。」

 慣れた……奴。
 だから貴重な笑い顔が見れたんだ。

 社長の息子でイケメンで。
 何もかもを持っている佐久間さんは自分とは住む世界が違う人なんだと改めて再認識した。









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