無愛想な仮面の下
「こんななりしてると変な奴が寄ってくるんだ。」

 スラリと伸びた指で湯呑みを渡されてドキリとする。
 女避けで汚い格好をしていた。というのもなんだか頷けてしまう。

「変なって元カノですよね?」

 ブッ。とお茶を吹き出した佐久間さんに文句を言いながらおしぼりを渡した。

「あんなイカれた奴、付き合うわけないだろ。」

 怒られて些か不満だ。

「だって佐久間さんのキスっていいでしょ?って私に言ってきたんですよ?
 とろけそうで……ってなんでもないです。」

 途中まで話してしまったと思った。
 意地の悪い笑みを向けられて目をそらす。

「お褒めに与り光栄です。」

 わざと一礼してみせて本当に意地が悪い。

「褒めてなんていません。」

「とろけそうだったんだろ?」

「そ、そんなこと………。」

 クククッと笑った佐久間さんが手を伸ばして頭を引き寄せた。
 そしてそっと唇を寄せた。

 またクククッと笑う佐久間さんが腹立たしい。

 こんなスナック感覚でキス出来る人のどこが女に興味ない!?
 しかも付き合ってもない……うん。付き合ってもないのに。

 運ばれてきた鰻はものすごく美味しそうなのに、味を感じる余裕なんてなかった。









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