無愛想な仮面の下
 静かな部屋に2人の呼吸する音だけがしていた。
 くっつけた体からは佐久間さんのか、はたまた自分のかの胸の鼓動がしている。

 私は何も言えないし、佐久間さんも何も言わなかった。

 大人の男の人が泣いてしまうほど、ショックな出来事だったんだろうと思うとなんて声をかければいいのか分からなかった。

 それでも佐久間さんから感じる温もりが、嬉しかった。

 愛美さんはもちろん佐久間さんが無事でいてくれたことの方がきっと大切で、2人の間に私には入り込めない思い出や絆があったとしても………それは、仕方ないことなんだから。

 それでもやっぱり、どうしてもっと早く誰よりも先に出逢えなかったんだろうってどうにも出来ないことを寂しく思って佐久間さんの体にしがみついた。

「どうした?悪かったな。
 変なこと話して。」

 落ち着いた優しい声に、顔を佐久間さんの背中にくっつけたまま首を左右に振った。

「守谷が言うみたいに、半分は汚い格好をしていて周りが放っておいてくれるのが楽だったんだ。」

「………はい。」

 きっとそれは大切な人が居なくなって、誰にも何からも逃げたかったんだ。

「それなのに………どっかの誰かさんは風呂も何日入ってないか分からないような俺に「お近づきになれて嬉しかった」って言った。」

 少し笑いながら話す話は、もしかして私のこと?

 というよりも!!

「お風呂何日もってそんなに入ってなかったんですか?」

「人間、風呂くらい入らなくたって死にやしないよ。
 大丈夫。今日はちゃんと入ってる。」

 クククッと笑う佐久間さんに盛大に突っ込みたい。

 いやいや。そういう問題じゃないでしょ!

 佐久間さんって残念イケメンの部類なのかも………。

 やっとこちらを向いた佐久間さんが私を抱きしめて言った。

「俺に晴れ女だから大丈夫!なんて、相当な殺し文句だぞ。
 俺といると不幸になるって言っても引かないしよ。」

「え、いえ。そんなつもりじゃ。」

 焦る私にわざと意地悪なことを言う。

「そうだよなぁ。彼氏いたんだもんな。
 お前。」

 う………。

 けれど、その時からきっと惹かれていた。
 自分でも気づかないうちに。

 佐久間さんは呟くように付け加えた。

「雨、嫌いなのに、最近は降っても少しだけ浮かれてる。
 あんたに会えるんじゃないかって。」

 どんな顔をして言っているのかなんだか信じられない。
 嬉しいのに恥ずかしくて佐久間さんの胸に顔をうずめた。

「俺ももう前を向かないとな。」

 佐久間さんの手が伸びて太ももにそっと触れた。

「あの……大丈夫、ですか?」

 優しく愛おしそうに触れる佐久間さんに恥ずかしいやら心配やらで気が気ではない。

 答えはくれなくて、太ももに顔を近づけた佐久間さんがキスを落とした。
 優しい口づけは次第に熱くなって吐息が漏れる。

 再び抱きしめられた佐久間さんに恥ずかしくてしがみついた。

「……続きは、また、今度な。」

 耳元で囁かれて心臓が悲鳴を上げそうだ。

「……お手柔らかにお願いします。」

「フッ。どうかな。
 今度は手加減できないかも。」

 フーッと耳に息を吹きかけられて耳を押さえた。
 笑った佐久間さんをたたくと、その手を取られてもう一度抱き寄せられてキスをした。






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