無愛想な仮面の下
 お昼休みが過ぎた屋上は誰もいない。
 街が見渡せて吹き抜ける風が心地いい。

 お昼休み返上でやってたんだから少しくらいの休憩は許されると言い切られ、屋上まで足を運んだ。

 一緒に食べようと言われ、佐久間さんも食べてないんじゃない。とは、言わないでおいた。
 私に合わせてくれたかもしれないから。

 佐久間さんが手にするのはサーモンとアボカドのやつでボリュームたっぷりでも、なんだか可愛らしいメニュー。

 変わらない佐久間さんにあの頃が懐かしくて、ふふふっと笑った。

「飯を与えた時は幸せそうな顔しやがって。」

 不服そうな声を聞いて佐久間さんを見るとそっぽを向いて目も合わせてくれない。

 そりゃサンドウィッチは嬉しかったけど、それで幸せを感じてたわけじゃないのに。

 訂正しようか、でもなんだか口惜しくて黙っていると佐久間さんの方が質問をしてきた。

「俺との幸せの形も分からない?」

「それは………。」

 やっとこっちを向いた佐久間さんは真剣な瞳で真っ直ぐにこちらを見た。

「いびつでもどんな形でもお前となら俺はいいかなと思ってる。」

 真剣で、それでいて優しくて温かい眼差しに胸の奥が熱くなって胸がいっぱいになる。

 そういえば幸せの形なんて、そんなことを思っていた。
 でも、今は………。

「私………。
 形とか気にしてられないくらい佐久間さんに溺れちゃってるので。」

「………は?」

 真っ直ぐ見つめる瞳を見つめ返して本音を口にした。

 佐久間さんと自分との境界に線を引こうとする暇もないくらいに佐久間さんは私の内側に入ってくる。

 それは時に強引で、でも優しくて、嫌じゃないから困るくらい。

 佐久間さんに溺れて抜け出せなくなるんじゃないかって、そっちの方が今は心配なくらいで………。

 佐久間さんは自分が質問したくせに言葉を失って、固まった。
 そして、顔が……赤い?

 再び目があって居心地が悪そうな顔をした佐久間さんが私の手を引いてキスをした。

 すぐキスするくせに。
 照れ屋なんだか、なんなんだか………。

 こっちは会社のしかも外でキスとか……。

 恥ずかしくて体を離すとこぼれそうなサンドウィッチをとりあえずペーパーの中で整える。

「由莉。」

 名前を呼ばれて胸が高鳴った。
 微笑む佐久間さんの伸ばされた手を取って腕の中に飛び込んだ。







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