無愛想な仮面の下
「ほら。」

 絡んだアイスを咥えた佐久間さんが私に向かって催促する。

 ここは佐久間さんのマンション。
 食事が済んで、まったりとソファに2人で並んでくつろいでいたはずなのに……。

「え……それは、ちょっと。」

「いいから。早く。」

 アイスを咥えた佐久間さんは色っぽくて真っ直ぐ見られない。
 アイスを咥えて半開きの口元が男の人なのに艶めかしい。

「ほら。」

 言い出したから聞かない佐久間さんに躊躇しながらも絡んだアイスの片方を咥えた。

 蠱惑的な佐久間さんに自ら近づいていくなんて鼓動を速めるのには十分過ぎて、触れそうで触れない距離なのも余計に恥ずかしくてキスするよりずっと………。

 そう思ったのも束の間。
 抱き寄せられて絡んだアイスをほどく前にアイスごと食べられてしまった。

 冷たくて甘くて、口の中で紐が絡んでしまいそうで…………。

 前後撤回!
 やっぱりキスする方が恥ずかしい!!

「あまっ。
 それに紐は食べれる素材の方が良かったかもな。」

 正確には甘酸っぱいのに、甘い物が苦手なら食べなきゃいいんだ。

 口の中に残る紐をティッシュへ出しながら普通に感想を述べる佐久間さんの胸元をたたく。

「なんだよ。
 自分が提案した食べ方だろ?」

 この言い方にはすごく語弊がある。

 最初のコンセプトは、甘酸っぱい青春な感じで、みんなでキャッキャ言いながら紐を引っ張って絡んだ相手との距離が縮まる。

 そんなイメージだ。

 そういう淡い青春のCMもコンセプトに合わせて流れている。

 それとは別に、ちょっと大人向けのもあったらいいんじゃないかって言ったのがきっかけでまさか実現してしまったCM。

 人気俳優が絡んだアイスを咥え、色気たっぷりに視聴者に向けて囁く。

『ほら。一緒にほどこ?』

 まさに佐久間さんがやったようなことで……。

「でも!
 一緒に絡んだアイスをほどくんです!
 キ、キスするわけじゃ………。」

 佐久間さんと咥え合って絡まったアイスをほどくなんて、上手く出来る自信なんて到底ないんだけど。

「俺はお前とならずっと絡んだままでもいい。」

 甘い甘い囁きはアイスの甘さの比じゃなくて。
 再び口づけた唇は優しくほどけて溶けて、熱っぽい吐息が漏れる。

 そして誘うように舐められ、絡め取られ、どっちがどっちのなのか分からなくてなるほどに重なり合って絡み合う。

 何度も何度も……。

 しばらしくて名残惜しそうに解放されると「俺以外とこの食べ方するの禁止な」と唇を甘噛みされた。







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