イケメン悪魔とツンデレ美女、ひとつ屋根の下で


レシピどおりに作ったはずなのに。


それなのに。


「全然膨らんでないっ!」


オーブンから取り出したチョコスポンジケーキは、


スポンジとはいいがたいほどペチャンコな姿をしていた。


「どうして!?」


わたしは理由がわからなかったけど、諦めずに二回目をチャレンジすることにした。


だけど...二回目も、うまくいかなくて。


一回目と同様まったく膨らんでないし、なんだかベチョッしてる。


こんなのスポンジじゃなーいっ!!


なにこの物体!?


こうなったら、葵ちゃんに助けを求めるしかない。


真っ先にそう考えた。


今頼れるのは、葵ちゃんしかいないよ。


プルルルル...


『もしもーし!』


なんコール目かで、電話は繋がった。


「葵ちゃん!!スポンジが膨らまないの」


『??スポンジ??』


わたしの第一声で、電話の向こうの葵ちゃんをハテナマークでいっぱいにしてしまった。


ちゃんと説明しなくちゃっ!!


「あのね。暁の明日の誕生日にケーキを焼こうと思うんだけど...うまくいかなくて」


ペチャンコスポンジに目をやりながら肩を落とす。


『なるほどねっ!暁、絶対喜ぶね!!』


とっても楽しそうな口調が耳に届いた。


だけど、今のわたしはそのウキウキさとは反対の気持ちである。


「こんなケーキかわからないような物体、絶対馬鹿にされちゃうよ」


鼻で笑う暁を容易に想像できた。


自分が勝手に思い浮かべただけなのに、ほんとに言われたみたいにむかむかしそうになった。


『物体って!

たしかにケーキって難易度高いよね。
ほかにご飯は作るの??』


「最初ご飯にしようかなって思ったんだけど、暁が作るご飯がおいしすぎて...ちょっとね。

誕生日と言えばケーキかなと思ってケーキにしたんだけど...」


葵ちゃんでも、ケーキって難易度高いんだ。


それなら、わたしなんか作れるわけなくない!?


『じゃあさじゃあさ、ご飯とケーキ、両方一緒に作ろうよ!!』


太陽みたいに明るい声が耳に注がれた。


「いいの?うん、作りたい!!ご飯はなに作ろう?」


葵ちゃんがいれば百人力だよ!!


『いいアイデアがあるの!今から支度して、彩ちゃんの家に行くねっ!!』


こうして葵ちゃんが来るのをわたしは心待ちした。

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