イケメン悪魔とツンデレ美女、ひとつ屋根の下で
「べ、べつにあれはなんでもないし...」
そう言って誤魔化した。
暁、なんで冷蔵庫開けたの!!
大人しくカレーの鍋と炊飯器のフタだけ開けるにとどめててよ!!
「言えよ」
暁に真っ直ぐに見つめられ、つぐんでいたわたしの口はゆっくりと開かれた。
「あれは......チョコケーキ」
暁が言っている“物体”というのはそれ以外ないだろう。
「ケーキ?あれが?」
わざとらしく言う暁にカチンときたけど、それよりも別の感情が上回った。
わたしは目線をテーブルに落とした。
「...あんなグチャグチャなケーキ...暁に食べさせられない。
明日、また作るから...綺麗なの食べてほしい」
昨日葵ちゃんの助言のもとに綺麗に膨らんだスポンジケーキ。
今日我ながら綺麗にデコレーションできたチョコケーキ。
それなのに...
暁の電話の向こうの女の子の件でむかついたわたしは、思わずラップの中のケーキを衝動のままに手で潰してしまった。
葵ちゃんにすごく申し訳ないし、暁も明日ではなくて当日にバースデーケーキを食べたようがよりおいしいはずだ。
わたしって、ほんと馬鹿...。
「あれでいいからもってこいよ」
うつむくわたしに暁の優しい声が降ってきた。
「わたしが嫌なの!」
顔を上げて言い切る。
「俺がいいっつってんだろ」
「っ...」
今日は暁の誕生日。
暁のために作ったケーキ。
本人がいいって言ってるんだから、出すしかない。