イケメン悪魔とツンデレ美女、ひとつ屋根の下で


民家から抜けて、川沿いへとやってきた。


でも今、わたしの耳には、鳥が鳴く声も、川に水が流れる音も聞こえない。


自分の世界のなかにいる。


残り、一キロ。


この一キロが、わたしにとっては踏ん張りどころ。


一番苦手なラストスパートだ。


「...っ」


足が、もつれてしまいそう...!


一人に抜かされていく......。


これまで何度か抜いたり抜かされたりしていって、今自分が何位にいるかなんてまったく検討がつかない。


「っは、...はっ」


また一人に抜かされてしまい、焦りがわたしを襲ってくる。


なんで思うように動かないの、わたしの足...!!


あんなに一ヶ月間練習したのに...っ!!


自分が嫌になり頭がごちゃごちゃになる。


もうだめかもーー


「ーーおい、彩ッ!」


っえ...?


辺りの音なんてまったく聞こえてこなかったのに、

たしかにわたしの名を呼ぶその声だけは、はっきりとわたしの耳に一直線に届いた。

< 74 / 198 >

この作品をシェア

pagetop