女探偵アマネの事件簿(下)
歪んだ淑女と捕らわれたアマネ
薄暗い部屋の中、ロウソクの明かりだけを頼りに、何度も何度も写真を見直す。
「……許せない」
写真に写っているのは、焦げ茶色の髪の男と、真っ黒な髪の女。
男が女を抱き締めてる姿に、苦々しい表情を浮かべながら、適当に放り投げて置いた新聞を握り締める。
「彼は、私のなのよ。ジャニーなんかに渡さないわ」
「人探しですか?」
暑い日差しが降り注ぎ、室内がむわむわと蒸し暑いにも関わらず、湯気の出ているコーヒーを飲みながら、依頼人の女性を見る。
ウィルはソファーに座らず、アマネの後ろに立って話を聞いている。
「ええ。情報が少ないから難しいかも知れないけれど、何とか探して頂戴」
「因みに、その相手と貴女の関係性は?」
「……彼は私の、運命の人よ」
恋人でも友人でもなく、運命の相手と答えた女性に、ウィルは苦笑いをする。
(こう言う人に限って、大体思い込みだったりするんだよな)
ウィルの苦笑いに気付いた女性は、ジロッとウィルを睨んだ。
「!」
アマネとはまた違った迫力があり、思わず肩が跳ねる。
だが、アマネの方は変わらず無表情に女性を見ている。
「それで、探してほしい方の特徴は何ですか?」
アマネにとっては、依頼人のプライベートなどは興味の対象ではないらしく、引き受ける体制を見せる。
「……焦げ茶色の髪に碧眼の瞳を持った男性よ。名前は分からないけど」
「……分かりました。それと、貴女が最後に彼を見かけた場所を聞いてもいいですか?」
「ええ。………ホワイト・チャペル地区の表通りよ」
頷いた後、女性はアマネを見る。
「分かりました。見つけ次第ご連絡致します」
「よろしくね」
女性は立ち上がると、ドアへと向かう。ウィルは先回りしてドアを開け、女性を見送った。
「………」
ドアを閉めてアマネを振り返ると、アマネはいつもの癖で考え込んでいる。
「情報が曖昧すぎて、見つけるの大変じゃないか?焦げ茶色の髪の人間なんて沢山いるし、名前も分かんないんじゃ難しいだろ?」
ウィルはアマネの前に座ると、アマネの返事を待つ。
「……彼女は思い込みが激しいようですが、相手のことはおそらく知っているでしょう。私が最後に男性を見かけた場所を聞いた時、視線をさ迷わせていましたし。ホワイト・チャペル地区の表通りで彼を見かけたのは本当でしょうが……」
アマネは言葉を一度きり、ウィルを見つめる。
「?どうした?」
「彼女からは、私に対する敵意のようなものを感じました。勘ですが、彼女は私を恨んでいるのでしょう」
「え?そんな感じしなかったけどな」
ウィルは首を傾げて、女性の様子を思い出す。
アマネを睨んでいるようにも見えなかったし、普通に依頼に来た人にしか見えなかった。
「私は人より、向けられる敵意に敏感ですので。確かに表には出していませんでしたが、感じました」
自分と向き合っていた時の、彼女の瞳の奥に秘めた怒り。
アマネが最後に見た、憎しみや怒り、そういったものを押し殺すような鈍い光を放つ瞳。
弟と同じ瞳。
「……少し、厄介なことになりそうですね」
アマネはそう呟いてから、残り少ないコーヒーを飲み干した。
「……許せない」
写真に写っているのは、焦げ茶色の髪の男と、真っ黒な髪の女。
男が女を抱き締めてる姿に、苦々しい表情を浮かべながら、適当に放り投げて置いた新聞を握り締める。
「彼は、私のなのよ。ジャニーなんかに渡さないわ」
「人探しですか?」
暑い日差しが降り注ぎ、室内がむわむわと蒸し暑いにも関わらず、湯気の出ているコーヒーを飲みながら、依頼人の女性を見る。
ウィルはソファーに座らず、アマネの後ろに立って話を聞いている。
「ええ。情報が少ないから難しいかも知れないけれど、何とか探して頂戴」
「因みに、その相手と貴女の関係性は?」
「……彼は私の、運命の人よ」
恋人でも友人でもなく、運命の相手と答えた女性に、ウィルは苦笑いをする。
(こう言う人に限って、大体思い込みだったりするんだよな)
ウィルの苦笑いに気付いた女性は、ジロッとウィルを睨んだ。
「!」
アマネとはまた違った迫力があり、思わず肩が跳ねる。
だが、アマネの方は変わらず無表情に女性を見ている。
「それで、探してほしい方の特徴は何ですか?」
アマネにとっては、依頼人のプライベートなどは興味の対象ではないらしく、引き受ける体制を見せる。
「……焦げ茶色の髪に碧眼の瞳を持った男性よ。名前は分からないけど」
「……分かりました。それと、貴女が最後に彼を見かけた場所を聞いてもいいですか?」
「ええ。………ホワイト・チャペル地区の表通りよ」
頷いた後、女性はアマネを見る。
「分かりました。見つけ次第ご連絡致します」
「よろしくね」
女性は立ち上がると、ドアへと向かう。ウィルは先回りしてドアを開け、女性を見送った。
「………」
ドアを閉めてアマネを振り返ると、アマネはいつもの癖で考え込んでいる。
「情報が曖昧すぎて、見つけるの大変じゃないか?焦げ茶色の髪の人間なんて沢山いるし、名前も分かんないんじゃ難しいだろ?」
ウィルはアマネの前に座ると、アマネの返事を待つ。
「……彼女は思い込みが激しいようですが、相手のことはおそらく知っているでしょう。私が最後に男性を見かけた場所を聞いた時、視線をさ迷わせていましたし。ホワイト・チャペル地区の表通りで彼を見かけたのは本当でしょうが……」
アマネは言葉を一度きり、ウィルを見つめる。
「?どうした?」
「彼女からは、私に対する敵意のようなものを感じました。勘ですが、彼女は私を恨んでいるのでしょう」
「え?そんな感じしなかったけどな」
ウィルは首を傾げて、女性の様子を思い出す。
アマネを睨んでいるようにも見えなかったし、普通に依頼に来た人にしか見えなかった。
「私は人より、向けられる敵意に敏感ですので。確かに表には出していませんでしたが、感じました」
自分と向き合っていた時の、彼女の瞳の奥に秘めた怒り。
アマネが最後に見た、憎しみや怒り、そういったものを押し殺すような鈍い光を放つ瞳。
弟と同じ瞳。
「……少し、厄介なことになりそうですね」
アマネはそう呟いてから、残り少ないコーヒーを飲み干した。