女探偵アマネの事件簿(下)
アマネの後を尾行していた女性は、物陰に隠れて二人の様子を見ていた。

アマネの後ろからやって来た彼に、女性は目を細める。

(あの人は……間違いないわ)

どんなに姿を変えようとも、彼女には人目で分かった。

自分の探していた、運命の人だと。

しかし、側にはアマネがおり、二人は親しげに話している(ように見える)。

(邪魔よ……邪魔だわ)

彼の側に居て良いのは自分だけ。それなのに、彼女は邪魔な所にいる。

一通り話が終わったのか、二人は別々の方向へと歩きだす。それを見て、女性はフランツの方ではなく、アマネを追いかけた。


(焦げ茶色の髪の男の人は、この周辺じゃ一人しかいないな。しかも、結構年重ねてるし)

ホワイト・チャペル地区の周辺の家で、焦げ茶色の髪の男の情報を集めていたウィルは、ふと足を止める。

この周辺で、もう一人だけ焦げ茶色の髪の男が居たのを思い出す。

(……ジル。いや、フランツか。……でもな、そうだとも限らねーし)

「君も彼女と同じように、悩み事かな?』

「ああ。ちょっとな―って……ええぇ?!どっから湧いたんだよ!!」

突然目の前に降ってきた男に、ウィルは悲鳴に似た声を上げる。

そう、文字通り塀の上から降ってきたのだ。

「君は君で失礼だね。人を虫みたいに言わないでほしいな」

「何してんだよお前」

「勿論、彼女の心を盗むため、デートに誘いにね」

ウィンクをするフランツに、ウィルは苛立ちを隠せない。

「残念ながら、アマネは依頼で忙しいんだ。お前は帰れ」

「彼女の探している相手が、僕だったら?」

フランツの言葉に、ウィルは眉をひそめる。

「……」

無言で先を促すウィルに、フランツは続ける。

「彼女の依頼人が探している相手は僕であることも、依頼人の女性が少々思い込みが激しい傾向にあることも聞いてね。彼女に会ってほしいと頼まれたから、僕はジルになるため、一度帰るところだったんだ」

「……ふーん」

素っ気なく返事を返すウィルを、楽しそうに眺めてから、フランツはふと考え込む。

(……思い込みが激しい女性……ね)

何となくだが、嫌な予感がしたのは何故だろう。

「じゃあ、僕は行くから」

フランツは胸の奥に感じた不安に首を傾げながらも、ウィルに手を振って後ろを振り返る。

数歩歩いてから、フランツは顔だけウィルを振り返った。

「……念のため、君は彼女と合流した方が良いんじゃないかな?」

「?言われなくても、もうすぐ待ち合わせの時間になるから、向かう予定だ」

ウィルは腕を組んで、フランツを見返す。

束の間絡み合った視線を、先にウィルが反らした。

「じゃあ、俺も行くから」

「……またね」

背を向けたウィルに、意味深な笑みを浮かべ、フランツも歩きだす。

短い間とは言え、友人であった彼を気に入っているのは事実だった。

(恋敵でさえなければ、本当の友人になれたかもね)
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