女探偵アマネの事件簿(下)
乾いた銃声の音が響き、アマネは胸を押さえて膝を着く。

「……っ……」

「だから、だから言ったじゃない!それなのに、挑発した貴方が悪いのよ!私は悪くないわ!?」

フランツはアマネの側に寄って、アマネの様子を伺う。そして、睨むように女性を見た。

「理由はどうあれ、君は銃を発砲し彼女を傷付けた。これはれっきとした犯罪だよ」

「どうして?どうしてそんなことを言うの?私に微笑んでくれたあの笑顔は何だったの??」

カタカタと震える手をもう片方の手で押さえつける。

「わ、わたしは、悪く―」

「そこまでだ!!」

「!け、警察?!」

レイチェルの言葉を阻み、グロー警部達が飛び出してきた。

「レイチェル・ディーンズ。傷害罪の現行犯として逮捕する!!」

レイチェルが声を上げる間もなく、警察官達はレイチェルを囲んだ。

「嘘よ。嘘よ嘘よ嘘よ!!ねぇ?助けてジル!!」

「…………」

フランツはただ静かにレイチェルを見返すだけで、何も答えない。

「連れていけ!」

「「はっ!!」」

「嫌……嫌よ!牢屋の中に入るなんて嫌!」

レイチェルはブンブンと激しく首を振るが、それに構わず警察官達はレイチェルを引きずっていく。

「とんだ災難だったな。……ほら」

グロー警部は、先程取り上げた拳銃をアマネに返す。

「ありがとうございます」

アマネは胸を押さえていた左手をどけ銃を受け取ると、グロー警部に頭を下げた。

「じゃあ、私は行くが」

「はい、お疲れ様でした」

グロー警部の背中を見送り、アマネはウィルを見る。

「お前、やられたふり下手だな」

「バレなかったので問題ありません」

アマネが押さえていた胸からは、血が出ている様子はない。つまり、撃たれたふりをしていたのだ。

「空砲だとバレなかったのは、彼女が素人だったのもあるけど、僕のフォローのお陰でもあるよね」

アマネは一発目は威嚇するために弾を入れていない。弾が入っていないと分かっていたから、ああいう行動に出た。

挑発したのも、レイチェルに撃たせるためだ。

「まぁ、ああいうのは現行犯逮捕するしかないからな……フランツ」

「何だい?」

ウィルはばつが悪そうに頭を掻いてから、フランツを真っ直ぐ見た。

「その……ありがとな」

「どういたしまして。…………ミス・アマネ」

フランツはアマネの耳に唇を寄せ、何かを呟いた。

「!」

囁かれた言葉に、アマネが表情を固まらせると、フランツはニコッと笑う。

「考えてみてね」

「おい、アマネに何言ったんだよ!」

「次のデートの約束!」

それだけ言うと、フランツは走り去っていく。

「………」

「おい、まさか本当にデートの約束なんじゃ……」

「帰りますよ」

アマネはウィルの質問に答えず、背中を向ける。

「え?あ、待てよ!」

アマネの背中に、ウィルの焦ったような声が聞こえたが、アマネは足を止めない。

フランツが呟いた言葉に、アマネは動揺していた。

―君が助けを待ってる時、誰の顔が浮かんだんだろうね?そろそろ、謎に気付いても良いんじゃないかな?―

(助けを待ってる時に浮かんだ顔……それは)

フランツの言葉に、アマネは俯いたまま歩みを進める。

(…………落ち着きません)

彼女自身にとっての最大の謎が、明かされようとしていることに、アマネは少しずつ気付き始めていた。
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