女探偵アマネの事件簿(下)
「……こんにちは」
『オルヴワル・マドモアゼル(ごきげんよう、お嬢さん)』
フランツ語で返しながら、視線で椅子に座るよう促す。
アマネはフランツの正面に座ると、頬杖を付いた。
「何か飲むかい?」
「では、紅茶でお願いします」
「珍しいね。コーヒーじゃないなんて」
意味深な笑みを浮かべたフランツに、アマネは視線を反らす。
「たまには、紅茶も良いかと思いまして」
「コーヒーは、君の助手君が止めてくれるから飲んじゃうんだもんね」
「………」
無言でフランツを見返したアマネに、フランツは肩をすくめる。
「……やっぱりね。君は思っていたより面倒な性格の子だ。まぁ、いいよ。今日は普通の男女として過ごそうと思っただけだし」
紅茶を注文して、暫く二人は無言で視線をまじわす。勿論、腹の探りあいのようなものをしているのだが。
「……お待たせいたしました」
紅茶を持ってきた店員も、二人のただならぬ雰囲気に戸惑っている。が、フランツがニコリと笑って紅茶を受け取った。
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
フランツの笑顔に安心したのか、あからさまにホッと胸を撫で下ろす店員に、アマネはふいに息を吐く。
そのせいか、ピリピリしていた空気が和らいだ。
「紅茶を飲み終わったら出掛けるよ。後、その格好も少し変えないとね。それから―」
フランツは手を伸ばしてアマネの髪紐をほどく。
さらさらと、流れるように落ちる黒い髪を、フランツは目を細めて眺める。
「うん、やっぱりそれが君らしいね」
「………」
優しい眼差しのフランツに、アマネは憂いを帯びた瞳で見返すと、紅茶を一気に飲み干した。
その後は服屋に連れられたが、アマネが頑なに拒んだため、諦めて帽子だけ被ってもらい、公園を散歩したり、劇場に行ったりした。今は橋から船を眺めている。
「はい。カスタードタルトをどうぞ」
「ありがとうございます」
途中で買ったカスタードタルトを食べてから、フランツはアマネの手を引いた。
「下に降りようか」
引かれた手を、アマネは振りほどかなかった。
『オルヴワル・マドモアゼル(ごきげんよう、お嬢さん)』
フランツ語で返しながら、視線で椅子に座るよう促す。
アマネはフランツの正面に座ると、頬杖を付いた。
「何か飲むかい?」
「では、紅茶でお願いします」
「珍しいね。コーヒーじゃないなんて」
意味深な笑みを浮かべたフランツに、アマネは視線を反らす。
「たまには、紅茶も良いかと思いまして」
「コーヒーは、君の助手君が止めてくれるから飲んじゃうんだもんね」
「………」
無言でフランツを見返したアマネに、フランツは肩をすくめる。
「……やっぱりね。君は思っていたより面倒な性格の子だ。まぁ、いいよ。今日は普通の男女として過ごそうと思っただけだし」
紅茶を注文して、暫く二人は無言で視線をまじわす。勿論、腹の探りあいのようなものをしているのだが。
「……お待たせいたしました」
紅茶を持ってきた店員も、二人のただならぬ雰囲気に戸惑っている。が、フランツがニコリと笑って紅茶を受け取った。
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
フランツの笑顔に安心したのか、あからさまにホッと胸を撫で下ろす店員に、アマネはふいに息を吐く。
そのせいか、ピリピリしていた空気が和らいだ。
「紅茶を飲み終わったら出掛けるよ。後、その格好も少し変えないとね。それから―」
フランツは手を伸ばしてアマネの髪紐をほどく。
さらさらと、流れるように落ちる黒い髪を、フランツは目を細めて眺める。
「うん、やっぱりそれが君らしいね」
「………」
優しい眼差しのフランツに、アマネは憂いを帯びた瞳で見返すと、紅茶を一気に飲み干した。
その後は服屋に連れられたが、アマネが頑なに拒んだため、諦めて帽子だけ被ってもらい、公園を散歩したり、劇場に行ったりした。今は橋から船を眺めている。
「はい。カスタードタルトをどうぞ」
「ありがとうございます」
途中で買ったカスタードタルトを食べてから、フランツはアマネの手を引いた。
「下に降りようか」
引かれた手を、アマネは振りほどかなかった。