女探偵アマネの事件簿(下)
十一時の鐘が鳴り終わり、フランツはウィルを見下ろす。

先程の話したアマネの過去は、ウィルには衝撃が強かったらしい。

(……後は君がここに来るだけ)

フランツは口元に笑みを張り付けながら、爪が手に食い込むほど手を握りしめた。

(僕は、やっぱり善人じゃない。だって、彼を傷付けて、心を追い詰めるためにこんなゲームをしたんだ。彼が君の側にいる限り、君は得られない)

ウィルがアマネのために側を離れることを選択するように、こんなやり方を選んだ。

(本当はね。君の過去を調べた時、ちょっと引いたんだ)

けれども、やはり欲しかったから。彼女を受け入れる姿勢を見せた。

(父様。僕はやはり貴方の息子で間違いないようだ)

欲しいと思ったら、手に入れるまで満足できない。

(けれども、貴方と違うのは……僕は約束だけは破らないことだね)

窓に写る白い光を放つ満月を見上げながら、フランツは心の中で呟いた。


そして、ついに十二時の鐘が鳴り響く。

六回、七回と鐘の音が響くが、アマネの姿は見えない。

「ゲームは、僕の勝ち―」

「いえ、私の勝ちです!」

十二時の鐘が鳴り終えるその直前、聞き覚えのある声が響いたかと思うと、窓が勢いよく割れ、見知った女性が飛び込んできた。

「……!!」

予想外のことにフランツは目を見開く。隣にいたウィルも顔をあげて驚いていた。

拳銃を持ったアマネが、あちこちに傷を作りながら部屋に入ってきて、飛び散ったガラスで手に傷をつけながらも、立ち上がる。

「……これは、さすがに驚いたな。どうやってここが分かったんだい?」

「貴方の昔話がヒントになりました。貴方が母親と住んでいた小屋に似たところに、ウィルを隠したのではないかと思いまして。廃墟のような小屋と言うのは絞り混むのに、時間がかかりましたが……………フランツ。ウィル。答え合わせをしましょうか」

「アマネ……?」

どこか力のないウィルの声に、アマネは悟った。

「答え合わせって、君の過去のこと?」

「ええ。人から聞いた情報が正しいとは限りませんから。真実を知っているのは、当事者だけです」

「僕は、君の縁談相手の家族から話を聞いた。だから、確かだと思うけど」

フランツの言葉に、アマネは目を伏せる。

「貴方は、私が純粋で無垢だと思いますか?」

「違うのかい?君は相手の男性と婚姻はしていないのだろう?」

「……ええ。そうです……ですが、私はもう無垢な娘ではありません。穢れてしまった人間なんです」

アマネの言葉に、フランツとウィルは息を飲む。

「これから、私は嘘偽りなく私の人生を語りましょう。貴方達が知った答えと、私が経験した答え。それがあっているのかどうか……試しましょうか」

そう言って、アマネは悲しそうに微笑んだ。
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