女探偵アマネの事件簿(下)

翌日。次の仕事を探しに町に出で、煙突掃除の仕事を引き受けた。

夕方までひたすら掃除し、作業が終わる頃には、身体中煤や灰にまみれていた。

(この状態で野宿……はぁ、気が重い。それに、いい加減風呂に入りたい)

まだ冬になる前とはいえ、肌寒い風が吹く中、湖に入る度胸はなかった。

「なぁ、お前普段どこに泊まってんだ?」

一緒に煙突掃除をしていた男が尋ねる。

「……まぁ、適当に」

誤魔化した所で、ウィルが野宿していると男には分かるだろう。

「家賃が凄く安いアパート知ってるけど、そこ行ってみればどうだ?」

(……アパートがそんなに安いとは思えないが)

アパートで安いと言うと、幽霊屋敷のような、ボロボロなイメージがある。が、雨風しのげれば良いかと、ウィルは前向きに考えてみる。

「そこには女の管理人がいてさ。何でも変わり者って有名で、アパートに住むやつは居ないらしいけど―」

男の話の殆どを聞いてないウィルは、考え込むように腕を組む。

(取り敢えず、風呂に入りたいし、服とかも洗っておきたいな。あまりにも不潔すぎると雇って貰えないし)

「で、何でもジャニーのくせして探偵なんてやって……って、聞いてるかおい?」

「ん?……ああ、うん。聞いてた聞いてた」

本当は全く聞いていなかったのだが、男の額に青筋が浮かんでいるので、ウィルは頷いておく。

「たくっ。ほら、これがアパートの地図だ」

男は紙をウィルに渡すと、さっさと外へ出ていく。

わりと親切だなと思いながら、ウィルは渡された紙を見る。

子供の落書きかと言いたくなるくらい、下手だったことに、ウィルは乾いた笑い声を上げた。


「……ここか?」

何とか目的の建物に着くと、看板を見る。アパートの名前と、その下にもう一つ何か書いてあった。

(えーと、『アマネ探偵事務所?』……探偵?)

首を傾げて、目の前のアパートを見上げる。どこからどう見ても普通の建物だ。

(探偵と言えば……)

昨日の女性を思い出し、ウィルは咄嗟に首を振ってその想像を頭から追い出す。

(何であの女の人思い出したんだよ)

少し疲れているのだと言い訳し、ウィルは覚悟を決めて中に入る。

カランコロンとカフェの扉のように、鈴のついたドアが鳴る。

「……すみませーん」

一応頑張って靴だけは磨いておいたが、ここの管理人がどんな反応をするのかと、気が気じゃなかった。

「あの……」

誰も来る気配がなく、ウィルは部屋に入り奥へ進んでいく。

やたら小綺麗に整頓された本棚や、受付のようなカウンター。その両端にはドアがある。

カウンターの前には長方形の机。両端にはソファーが向かい合うように置いてあり、一言で言うなら事務所のような部屋だ。

「……綺麗に片付けられてるな」

「それは、どうもありがとうございます」

「うわっ!」

返事が返ってきたことに驚いたウィルは、そのままこけた。
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