女探偵アマネの事件簿(下)
次の日ウィルはアマネに連れ出され、服屋に行く。

「ウィルの髪色から、これが似合うでしょう。後はネクタイと靴ですね」

「……あのー、アマネ?」

「何ですか?」

ウィルに服を当てながら、ブツブツと呟いているアマネに、ウィルは戸惑ったような声をあげる。

起き抜けに「行きますよ」と言われ、聞き返す間もなく連行されここにいるのだが、何が何だか分からない。

「何で俺、服屋にいるんだ?」

「ウィルの服はあちこちボロボロで、もう着られないでしょう。今着てるのもサイズが合っていませんし。それに」

アマネはそこで、ウィルを見上げた。

「私の助手なんですから、服装は清潔にしませんと」

「ああ。なるほど」

確かに、探偵の助手があまりみすぼらしい格好をするわけにはいかないだろう。

「これ、着てみてください」

一通り着せられて、一番似合っていた茶色のスーツと黒い靴を着用したまま、二人は服屋を出た。

「服代、家賃と一緒に返すから」

「別にいいです。それは、私から君へのお祝いですから」

アマネの言葉に、ウィルは足を止める。

「?どうかしました?」

「えと、どういう意味なのかと思ってな」

何とも言えない表情を浮かべるウィルに、アマネは手を後ろに組んだままウィルを見上げる。

「言葉のままですよ。君が私の助手になったお祝い、新しく入居者になったお祝いの二つの意味です。それに、これから君には、とことん働いてもらいますから」

「……それなら、ありがたく受け取らねーとな!」

ウィルはニコッと笑った。愛想笑いではなく、心から。

予感がしたのだ。退屈しない、自分の居場所になるかもしれない予感を。


アマネからプレゼントされたスーツを、ウィルは毎日着ている。

彼女が事件の依頼を受け、侵食忘れて謎を解いてることに戸惑ったり、怪しげな液体を料理に混ぜて退屈を紛らわしたりしてる彼女に、生命の危機を感じたり。

彼女に振り回されながらも、充実した毎日をウィルは送っていた。

「ウィル。拳銃の使い方、知ってますか?」

「ああ。爺さんに習った。銃の才能はそれなりにあったみたいだけど、日頃の仕事の役にはたたなかったな」

好き好んで、命を奪うような真似をしたくはなかった。

あくまで最終手段の護身用だったが、アマネは銃の使い方を教えてほしいとウィルに頼んだ。

アマネの叔父が使っていた銃は、使い方が分からないアマネにはどうしようもなかった。

「この先、依頼が増えれば難事件に挑む機会も出てくるでしょう。その時、自分の身を守れる術は、多い方が良いですから」

ウィルはアマネの言葉に折れ、アマネに銃の使い方を教えた。

だが、それ以来ゴリラ呼びの度に銃口を向けられるので、教えなければ良かったかと後悔したが。

共に過ごすうちに、お互いがお互いを相棒と認めあえた。

下手をしたら気持ちの自覚をせずに、時を重ねていたかもしれない。

一年後、二人の前に現れる怪盗によって、二人の―特にウィルの気持ちが変化することになろうとは、二人は思っていなかった。
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