残念な死神
「今なんて言いました...?」
化物でも見るような目を向けてくる羽根男。
死神志願者が化物だとしたら、実際に死神の羽根男は何なのだろうか。
...怪物?
「死神になろうかな、と」
藍人はさっきまで死神の存在すら知らなかったが、この羽根男が死神だと言うのなら、自分にもできる気がしていた。
それは何故か。
羽根男だからとしかいいようがない。
おかしなことを言っているとは思わなかった。
むしろ生き返りたいなどと無謀なことを言い出すよりはマシなんじゃないだろうか。
「死神になることは簡単なことじゃないンスよ?あんたわかってなさそうだけど...」
「あんたがなれるなら...」
「それすごい失礼ですからね!?
初対面ですよ!あんたとオレは!そんなこと言われるような仲になった覚えはないッスよ!?」
ここに来て、仲がよければどんな暴言でも吐いていいと同等のようなことを言う羽根男。
今までどんな人間関係を築いてきたのだろうか。
藍人は一気に羽根男が不憫に見えてきた。
「はぁ...もう好きにしてくださいよ。オレはもう口出ししませんから」
藍人のわがままには付き合いきれないとでも言うように、あーだこーだ言うのをやめた羽根男。
「どーやって受けるの」
「推薦書出しときます...そのうち手紙くるんで、そこら辺にいてください」
「ふーん」
なんだか高校受験のようだ、と藍人は少し前のことを思い出す。
ろくに高校生活を楽しまなかったことに気付く。
むしろ気付いていてわざとそう振舞ったのかもしれない。
楽しい思い出なんていらない。
そう思ってた中学時代に比べたら、マシな日常をおくれていたと思う。
それはきっと彼女のお陰なのかもしれない。
藍人は忘れようと思ってもついてまわる記憶にとことん向き合ってみる。
未練はある。
ただ、未練を残せるほどに自分は生きていられたのだと、少し安心すらする。
だから、それを叶える必要は無い。
藍人は少し、面倒な人間だ。