残念な死神

死神





「オレ的に今年一くらいの驚きなんですけど今なんて?」


「合格だって」



気付いたらジーンズのポケットに入っていた紙を再度取り出して開く。

何故かいつも少し浮いている羽根男にも見えやすいように少し斜めに見せる。


気付いたら、というのは寝ていたらとかではなく、本当にいつの間にか入っているのである。

受験前から合格まで、書類関係は全てそうだった。


最初こそ気持ち悪いと思ったものの、まぁ毎回の受け渡しで人と会うのも面倒な気がしたので、藍人の気質にはあっていたのだと思う。

ちなみにあちらへ書類を送りたい時は、書き終わった瞬間に目の前から消える、というものだった。
本当に不思議だと思う。

不備がある場合は消えない。

これでよし、と思った時にのみ、タイミングよく消えるのだ。




「...」


無言で紙を見つめる羽根男。

言いたいことはたくさんある。が、言い切れないので飲み込む。
うまく言えないがそんな顔をしている。


「よりによって金バッチ...」


色々飲み込んだ末、溜め息と同時くらいに出てきた言葉は藍人には聞きなれないものだった。


「バッチ?」


羽根男はまさか、と驚きの表情を浮かべた。


「今まで知らずにそのバッチしてたんスか!?」

「問題でもある?」


「いや、あんたに害はないでしょうけど...」


ならいいじゃん、と藍人は合格通知書を折りたたみ、ポケットに戻す。



「一応教えときますけど、バッチは死神のランクっす。大体は年功序列で上がってくンスよ」

なのにどうしてあんたが...と羽根男は落胆の表情を浮かべる。


そこで羽根男にはバッチがないことに気付いた。

言わないでおこう、と藍人は視線を外す。

プライドのやたらと高そうな羽根男にその言葉は禁句だろうと思った。




「で、死神ってどうすればいいの」


藍人の質問に、またして驚く羽根男。

急に動きがおかしくなりポケットを漁る。


あ、もしかして。と藍人は予想する。


「ああぁ...」


羽根男のポケットからは折り畳まれた紙が出てきた。

死神に対してもこの方法で書類を渡すのか、とこの組織への謎がまた深まった。


「...小池藍人。あんたの教育担当になりました、細川アラタでス。本日より1ヶ月、研修期間が終わるまでよろしくお願いします」

「1ヶ月...」


マニュアルがあるんだろうな、と予想ができるカタコトで挨拶をする羽根男...改め細川。

やる気がないのは目に見えている、が。
この男は何だかんだと文句を言いつつ、仕事はこなすタイプだ。
会ってそんなに経った訳では無いが、藍人は細川をそう評価していた。



「1ヶ月が長いって思いました?
どこの会社もそんなもんスよ」

細川はまるで仕事モードのスイッチが入ったかのようにテキパキしていた。

藍人は1ヶ月を長いと感じたのではなく、1ヶ月も細川と行動するという事実を悲しんでいるのだ。

本人には伝えないでおく。

仕事モードならそんなに辛くないかもしれないので。


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