残念な死神


「最初に、死神の仕事についてどのくらい知ってますかって質問をするんで、適当に答えてくださいネ」

「適当に...」


細川の言葉に疑問を持ちつつ、死神とは?と自分に問いかける。

藍人が知っていることはほぼない。

死神といっても細川しか知らないし、実際自分は死神になってしまったわけで、細川は死神としての仕事をほぼこなしていないんじゃないかと思う。



「まず、死神とはどういう存在か」

存在...
分類的にということだろうか。

「半神半人」

率直に言ってみることにした。
とりあえず藍人の意見としてはこうだ、と相手に伝えるのも大事なのかもしれない。


「はぁ...んー...まぁ、いいか」


長く相槌をうって次の質問へと進む。

とりあえず質問が優先らしい。


「次。死神の仕事を簡潔に説明すると」

簡潔に...

「死者の案内人」

実際に案内されてはいないけど、あながち間違っていないんじゃないだろうか。

藍人は自分で出した答えを自画自賛する。

「ほう」

今度は短い相槌。


「次。死神がやってはいけないことは」

減給とかあるのだろうか...

「死ぬ前に死ぬよって伝えること」

「おぉ...」

外れている気がする。
細川の反応が少し違っていた。



「じゃあ次、死神として大事なことは」


大事なこと...
信念とか心構えとか、そういうものだと思っていいのだろうか。


「死者は神様」


「なんスかその日本人が陥っている現状に切り込んだ感じの答えは」


あ、突っ込むんだ。

今まで仕事モードだったから余計に新鮮に感じたのかもしれないが、細川はやはりツッコミだ。



「最後。死神の上下関係は」


「バッチで覆せる」

「そんなことないっスからね!?」


あ、仕事モードが解けてしまった。

藍人は思う。
今の質問はきっと細川の個人的なものであったと。



「...まぁ、あながち間違ってはないと思うっスけどね。一応正しい答えを言っときます」


ごほん、と咳払いをした細川はまた仕事モードに変わった。
藍人にとってはありがたい。



「名前には神って入ってますけど、神様ではないんスよ。神は万能ですけど、死神は特別な力が使えるわけじゃないっスからね」


細川の顔に影がかかる。


「死者をあの世へ送るのは神の力じゃない。自然なことなんスよ」

「それはそーだね」

「だからオレたちは驕っちゃいけない。自分の力を過信しちゃいけないんスよ」


過信...自分に力があると、そう思ってしまうことで死者を不幸にすることがあるのだろうか。

いやそうじゃない。
過信することで無駄な希望を与えてしまうのか。

それを想像した藍人は、つくづく残酷だと思った。


光のない希望なんて、ただ光がないより辛いじゃないか...


きっと細川はそれをわかってる。もしくは経験をしたのかもしれない。



「まぁこのくらいで...死神の仕事ッスね」

細川は無駄に切り替えがはやい。

「大体合ってますね、死者の案内人。
この世で彷徨う死者をあっちに連れて行く...基本的な仕事はそんな感じっスね」

「へえ」

今度は大分アバウトな説明だ。
細川らしくもないと思ったところで藍人は気付いた。

細川らしいってなんだ?


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