朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
「それで、降渡の周りにあいつの事情を知らない級友が多いのは中等部時代から知っていたから――中等部は制服、学ランだったんだけど、高等部はブレザーだったんだ」
「ふむ?」
「それが少し降渡には問題で……あいつ、ネクタイがしめられないんだ」
「ネクタイ?」
「理由は……まだ、言いにくいんだが」
少しだけ、咲桜と似ている理由だから、口にしたくはない。
咲桜が首に負った傷。
触れることへの拒絶が薄れているとはいえ……。
「首に何かを巻くとか、出来ないってこと?」
「……そうだ」
「うん。わかった。そういう症例があるのは、知ってるから。それで?」
咲桜は凛とした眼差しで返事をしてきた。
……咲桜は日ごとに強くなっているように感じる。