朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「だ……だめだ……わたし、流夜くんにはお菓子はあげられない……」
 

本気で落ち沈む。


反対に笑満の声は少し元気が戻っていた。


『作らないの?』


「あげたって殺人お菓子だよ……」


『流夜くんならなんでも喜びそうだけど――バレンタインどうするの? チョコでなくてもお菓子じゃない?』


「……はっ!」


『咲桜が料理上手なのは周知なんだから、流夜くんも期待してるんじゃない? まだまだ先だけどさー』


「……のり」


『のり?』


「海苔で黒さを出してなんか作るのはどうだろうか……? こうご飯に巻いたりして……」


『アウトー。甘さがないよ、咲桜。全体的に。そしてそれはただのおにぎりだよ』
 

言われて、息を呑んだ。


確かにただのおにぎりだった。


『夜々さんがいれば、まあ大丈夫なんだっけ?』


「大丈夫なのは私のメンタルだけで、お菓子作りの腕はない」
 

キリッとした顔で情けないことを言う。

< 182 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop