朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
「だ……だめだ……わたし、流夜くんにはお菓子はあげられない……」
本気で落ち沈む。
反対に笑満の声は少し元気が戻っていた。
『作らないの?』
「あげたって殺人お菓子だよ……」
『流夜くんならなんでも喜びそうだけど――バレンタインどうするの? チョコでなくてもお菓子じゃない?』
「……はっ!」
『咲桜が料理上手なのは周知なんだから、流夜くんも期待してるんじゃない? まだまだ先だけどさー』
「……のり」
『のり?』
「海苔で黒さを出してなんか作るのはどうだろうか……? こうご飯に巻いたりして……」
『アウトー。甘さがないよ、咲桜。全体的に。そしてそれはただのおにぎりだよ』
言われて、息を呑んだ。
確かにただのおにぎりだった。
『夜々さんがいれば、まあ大丈夫なんだっけ?』
「大丈夫なのは私のメンタルだけで、お菓子作りの腕はない」
キリッとした顔で情けないことを言う。