朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「……最初は、笑満だけがその上にいたんですよ。独りで。見たことがない子がいたから、そこへ世話焼きな咲桜が近づいて。笑満に咲桜は見えてなかったでしょうね。ふわっと、鳥が羽を広げるみたいに軽く、笑満の身体は宙に浮きました。それを、咲桜が引き留めた。

……俺も反射的にシャッター押しちまいましたけど、その後ちゃんと下に受け止めに行きましたから。つっても、笑満の足は地面に届くかってくらいだったんで、ほんとサポートだけですけど。

その後俺が咲桜にぶん殴られて、笑満がびっくりして泣き出して大変でしたよ」
 

軽く腕を広げておどけて見せたけど、先生は複雑そうな顔をしている。


「……日義、殴られすぎじゃないか?」


「ああ、俺ドМなんで。……ちょっと、そんな本気で引いたカオしないでくださいよ。時流に乗せた冗談でしょうが」


「………」


そう説明しても、先生は引いたカオが治らなかった。


たぶん先生なら私事柄、そういうのの本物を知っている。


俺は本物に逢ったことはないけど、ルポルタージュとか読む限りかなり怖い。


だから戯言(たわごと)に聞こえないんだろう。

< 210 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop