朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
「……最初は、笑満だけがその上にいたんですよ。独りで。見たことがない子がいたから、そこへ世話焼きな咲桜が近づいて。笑満に咲桜は見えてなかったでしょうね。ふわっと、鳥が羽を広げるみたいに軽く、笑満の身体は宙に浮きました。それを、咲桜が引き留めた。
……俺も反射的にシャッター押しちまいましたけど、その後ちゃんと下に受け止めに行きましたから。つっても、笑満の足は地面に届くかってくらいだったんで、ほんとサポートだけですけど。
その後俺が咲桜にぶん殴られて、笑満がびっくりして泣き出して大変でしたよ」
軽く腕を広げておどけて見せたけど、先生は複雑そうな顔をしている。
「……日義、殴られすぎじゃないか?」
「ああ、俺ドМなんで。……ちょっと、そんな本気で引いたカオしないでくださいよ。時流に乗せた冗談でしょうが」
「………」
そう説明しても、先生は引いたカオが治らなかった。
たぶん先生なら私事柄、そういうのの本物を知っている。
俺は本物に逢ったことはないけど、ルポルタージュとか読む限りかなり怖い。
だから戯言(たわごと)に聞こえないんだろう。