朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
春が見せるみたいな朗らかな顔に、緊張に染まっていた手が緩む。
……心配していたことではなかった? ううん、完全に払拭は出来ないけど、取りあえず今は大丈夫みたいだ。
そう、説得するみたいな、宮寺先生の柔らかな笑顔だった。
通路から降りて、中庭のベンチに座った。
ここは校舎内からは死角になるけど、反対に周囲に誰かいればすぐ気づく立地だった。
「あの華取さんと同じ苗字だし、字も一般的な『香取』じゃなかったから、賭けだったんだけどね。娘さんがいるのは知ってたけど、華取さん、娘には男は近づけないってスタンスだって聞いたから」
「………」
……流夜くんのよく言う娘バカが発揮されていたのだろう。
今や教師に近づけちゃった父さんだけど。
そこで宮寺先生ははっとしたように肩を震わせた。