朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
side咲桜
「………」
私は背中に汗をかきながらキッチンに向かっていた。
急に来たかと思えばどうしたのだろう、師匠(せんせい)は。
私にとっては作法や武道の師匠であるお隣の箏子(ことこ)師匠が、急にやってきたのだ。
お茶を淹れるだけでも、師匠を相手にするのは、娘の夜々さんとは全然違う。
うお、手が滑るっ。
なんとかお茶を盆に載せて持って行く。
今日も綺麗に着物を着こなしている師匠は、瞳を細めてこちらを見て来た。
「相手の方、なかなか良い方ではないですか」
「え……」
相手? なんの?
きょとんとしていると、箏子師匠は咳ばらいをした。