朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
「健康なのは良いことです。が、元気過ぎるのも問題です。中庸(ちゅうよう)というものを、お前は学びなさい」
「……はい?」
いつもと同じ、叱るような口調だったのに、何故か中身がいつもと違う気がして疑問符のついたような返事になってしまった。
「お前は――結婚したら、どうするつもりです」
「え、二年後の話ですか?」
「まるっと三年はあるでしょう。神宮さんの、専業主婦に落ち着く気ですか?」
「えーっと……」
そこまで考えていなかった。
ただ、流夜くんと結婚して家族になる、というところまでしか考えていなかった。
職業とか、考えるものの中にカウントしていなかった。
「あれほどの才気の方の妻ならば、それが良いかもしれませんが、お前はまだまだ子供です。在義に護られて世間を知らなすぎる。一度は社会に出た方がいいと、私は思いますけどね」
「―――」
社会。
仕事。
「そうして――早く在義を解放しておやりなさいよ」