朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
「………」
黙って頭を下げた。
箏子師匠は振り返る気配もなく華取の家を出て行った。
扉が閉まってしばらくして、やっと顔をあげた。
「……あー、久々にきたなー……」
箏子師匠の襲撃。
ぐしゃっと髪を掻いて、目線が落ちた床を見つめる。
大丈夫、人に嫌われるのは慣れている。大丈夫、人に疎まれるのも慣れている。大丈夫、人に忌まれるのだって慣れている。全部全部、華取咲桜は慣れっ子だ。
「………」
だから、在義父さんや夜々さんや、笑満や頼、親しくしてくれる人は奇特で大事で。
優しさをもらえば、優しさを返したくなる。
大丈夫。
だいじょうぶ。
落ち着いて、私の心。
私には私がいてあげるから、一人にはしないから。
流夜くんがすきだと言ってくれた私を、私は護りたいから。
「……大丈夫ね? 咲桜」
今日も、生きていけるね?