朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】
私が呼びかけなくても、ふとこちらを見る瞳は、表情は、それまでと全然違ってくる。
それまで宿っていた三日月のように鋭い光から、満月に薄い衣がかかったような柔らかさの光の瞳。
瞬き一つで、流夜くんは雰囲気まで変えてしまう。
咲桜、おいで。
そう呼んで、手を差し出す。
私がそれを取らなかったことはない。
導かれるように手を重ねて、驚く間もなく抱き込まれてしまう。
流夜くんならぜんぶ、大すきだから……。
今日淋しいのは、自分を優先してくれなかったことではない。
それが、多忙な職業だとわかっている。
ずっと在義父さんの背中を見て来たのだから。
……ただ、逢えないことが淋しい。
昼間、宮寺先生が現れた件で旧校舎に近づけなかった。
流夜くんの担当授業もなかった。
姿を見られたのは宮寺先生ぶっ飛ばし連行のときだけだ。
今までが逢え過ぎていたのかな? 普通の恋人はもっと遠いものなのだろうか。
……そういえば……。